給料明細で所得税が引かれてない!誰の責任?どうしたらいい?

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給与から所得税を引くのは会社の仕事です。もし会社がその仕事をしていなかったらどうなるのでしょうか。責任の所在や対応方法などを考えてみましょう。

悪いのはどっち?税金を引かない会社と税金分までもらう従業員

会社が従業員へ給与を払うときに、所得税分を引くことを源泉徴収と言います。会社は源泉徴収したお金を、従業員に代わって国へ納めます。源泉徴収があるおかげで、従業員は税金を納める手続きを自分でしなくてよくなり、同時に税金をちょろまかすこともできなくなります。

会社は源泉徴収義務者という立場にあり、源泉徴収することを法律で義務付けられています。もし給与を受け取ったときに所得税が引かれていなかったら、それは会社が源泉徴収義務者としてやるべきことをしていないことになるので会社側の問題です。

一方で会社が源泉徴収をしなくていい従業員の例外というのもあります。

これはセーフ。所得税が引かれていなくてもOKな働き方

会社が源泉徴収をしているかどうかを確認する方法は給料明細を見ることです。所得税の項目に金額が入っていなければ、それは源泉徴収がされていないことになります。

給料明細で所得税が引かれてない、つまり会社が源泉徴収を行わなくていい従業員というのは次の働き方に該当する人です。

  • 「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を提出していて、かつ給与額(社会保険料控除後の金額)が月額8万8,000円未満。

少し分かりづらいので、簡素化して要点を説明するなら「月に8万8,000円未満しかもらっていない人。仕事を掛け持ちもしていない。」となります。これに該当するのはパートやアルバイトなどの働き方をしている人が大半になります。

これはアウト。所得税が引かれていないのはNGな働き方

前の章で所得税が引かれていなくてもセーフになる働き方の基準を説明しました。この条件を満たすのはかなり限定された働き方です。よって正社員で普通に働いている、派遣社員で週5でフルタイム働いている、バイトの給与が毎月10万円を超える、といった働き方をしているなら、給与からの源泉徴収は必須です。所得税が引かれていなかったらそれは会社側の落ち度です。

ケースタディで考える源泉徴収のあり方

所得税が引かれてない状況がセーフなのか、アウトなのか、その基準を確認しました。ここからは具体的な例をあげて、そのケースごとの源泉徴収の在り方について確認してみます。

稼ぎに凸凹のあるアルバイトの源泉徴収

「普段は月5万円くらいの働きだけど会社の繁忙期はシフトを多く入れるので月に9万円以上は稼ぐ…」

このように月によって稼いだ金額に凸凹がある働き方は珍しくないでしょう。このケースでは月額8万8,000円以上となった月は給与から所得税が引かれます。たとえそれが年に1回だけのことだとしても変わりません。

掛け持ちバイト・パートの源泉徴収

「バイトをふたつしていて、どちらも月額8万8,000円未満だけど、合計すると月10万円を超えている…」

このケースでは稼ぎが多くなるメインのバイト先と、そうでないバイト先で対応が異なります。メインのバイト先には「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を提出しなければなりません。それでいて給与額は月額8万8,000円未満ですから源泉徴収はありません。一方、もうひとつのバイト先へは「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」が出せません。なぜならこの書類が出せるのは1社のみと決まっているからです。書類を出せていない場合は給与額が月額8万8,000円未満であっても源泉徴収があります。

育休取得の正社員の源泉徴収

「今月の途中から育休を取得する。育休を取っている間の源泉徴収はどうなるの?」

育休中は会社から給与は支給されませんので、月額8万8,000円未満の基準に照らすまでもなく源泉徴収はありません。育休開始月と育休終了月は月の途中まで、または途中から仕事をすることもあるでしょう。正社員なので社会保険にも加入しているので基準となる「月額8万8,000円未満」かどうかは社会保険料控除後の金額で考える点を注意してください。


ケースタディを確認することで、より源泉徴収の仕組みがイメージできるようになったのではないでしょうか。この記事では分かりやすさを重視し、会社とその従業員をモデルケースとしていますが、源泉徴収が発生するのはこの関係以外にもあります。個人事業主が人を雇ったり、業務を委託し報酬を支払うケースなどでは個人事業主が源泉徴収義務者として、会社と同じ役割を果たさなければなりません。そのほか官公庁、社団法人、財団法人、協同組合、学校などで働いている場合も、この記事で説明している源泉徴収の仕組みは当てはまります。

所得税が引かれてないときに、取るべき行動とは

基準に照らし合わせたら源泉徴収されるはずなのに、給料明細を見る限り所得税は0円で、まったく引かれていないときにはどうすべきでしょうか。

まずは会社へ確認することです。そのうえで会社側のミスで引くべきところが引かれていなかったのであれば、翌月以降の給与支払い等で調整することになるでしょう。

会社へ伝えたにも関わらずいつまでたっても税金が引かれない場合はどうしたらよいのでしょうか。法的には会社側に源泉徴収によって税金を納める義務がありますので、ペナルティを受ける可能性があるのは会社です。具体的には延滞税や不納付加算税などが会社へ科せられる可能性があります。また、源泉徴収分を間違って給与として従業員へ支払っていたのなら、その分を返してもらう必要があります。従業員としてすることは返金への協力です。

源泉徴収されないまま働いていた会社が倒産してしまったらどうなるのでしょうか。源泉徴収分を返す相手もいないので、自分の懐へ入れても問題ない……。ということはありません。その場合は自分で確定申告という税務手続きをして、払っていない所得税を納めなければなりません。税金のことに詳しくない人にはかなり面倒な作業です。事情が特殊なこともありますので、税務署へ相談することをお勧めします。所得税は毎年1月1日から12月31日分の所得に対して計算しますので、税務署への相談は年が変わってすぐ、遅くとも確定申告が始まる2月16日より前にしておくと良いでしょう。

執筆者

鈴木玲(ファイナンシャルプランナー/住宅ローンアドバイザー)

出版社、Webメディアで企画・制作を手掛けたのちに、メディアプランナーとして独立。それまで無関心だった社会保険や税金、資産運用に目覚める。主に若年層に対して社会の仕組みやお金の役割について経験をもとに、わかりやすく伝える。

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