パートさんにはいろいろ事情があります。「パート先の社会保険に入りたくない」もそのひとつ。配偶者の扶養から出たくないから、というのが最も多い理由でしょう。
時代はパートを社会保険へ入らせようと躍起になっていて、パートの社会保険への加入条件もここ数年で目まぐるしく変わっています。特に2022年は10月に大きなルール変更があるため、パート先でうっかり社会保険に入ってしまうリスクもあるので十分注意が必要です。
2021年、パート先の社会保険に入りたくない人が厳守すべき条件は?
パート先で社会保険に入る条件を満たしてしまったら「私は(入らなくて)けっこうです」は通用しません。
絶対に超えてはいけないハードル
パートでも正社員とほとんど変わらない仕事時間で働く人もいます。こうした働き方をしている場合は、パート先の社会保険に入ることになります。具体的な時間の目安を確認しましょう。以下の両方を満たす場合です。
- 1週間の所定労働時間が一般社員の3/4以上
- 1ヵ月の所定労働日数が一般社員の3/4以上
そもそもこの条件で働いたら配偶者の扶養から外れる「年間収入が130万円未満」の壁も簡単に突破してしまうことでしょう。
一応こういうルールがある、程度の理解で問題ありません。
ひとつ以上のクリアが必要になる条件
パート先の社会保険に入りたくない。でも限界までは稼ぎたい。そんなパートさんにはこれから話す基準が大切です。「ステータス」「勤務期間」「労働時間」「賃金」に係わるもので、どれかひとつでも該当すれば、職場の社会保険に入る必要はありません。
学生である
高校、大学、大学院のほか、学校教育法で規定された専修学校、各種学校の学生です。ただし、休学中の場合や通信教育、夜間・定時制で通う学生は対象になりません。
1年以上の使用見込みがない
これは消去法で考えると分かりやすいです。まず期間の定めがなく雇用されている場合と、雇用期間が1年以上と定められている場合は1年以上の使用見込みが「あり」になります。雇用期間が1年未満であっても契約書に契約更新について書かれていたり、これまでに同じ仕事で1年以上更新された実績がある場合も扱いは1年以上の使用見込みが「あり」です。上記のいずれにも該当しなければ、1年以上の使用見込みが「ない」に該当します。
週の所定労働時間が30時間未満である
「所定労働時間」とは、雇用契約書や就業規則に記載されている始業時間から終業時間までの時間から休憩時間を引いた時間のことです。1週間の所定労働時間が30時間未満であることが、職場の社会保険に加入しない条件です。所定労働時間が月や年単位で決まっている場合は、週に換算して求めます。
賃金の月額が8.8万円未満である
賃金には時給や日給などの基本給のほか各種手当が含まれます。月額賃金8.8万円は年収106万円に相当します。これを超えてはいけません。なお、ここでの賃金には臨時の手当て(結婚手当や賞与)、時間外労働、休日労働、深夜労働に対する賃金、通勤手当、家族手当は含まれません。
1年後にパートの加入者激増!? 2022年が転職年になる人も
パート先の社会保険に入りたくない人が厳守すべき条件を確認してきました。この先、パートの社会保険への加入条件はより緩やかになります。社会保険に入りたくない人からすると、より注意が必要になるということです。
条件緩和の対象となっているのは「週の所定労働時間が30時間未満である」の部分です。従業員数が501人以上の会社ではすでに30時間未満ではなく20時間未満に緩和されています。そして2022年10月からは従業員数が101名を超える会社にもこの緩和基準が適用されるようになります。週25時間働いたら条件をクリアできなくなってしまうのです(ほかの3項目のいずれかひとつをクリアしていれば加入対象からは外れます)。
2024年には従業員数が51名以上の会社も同様の基準となる予定です。
時期 | 従業員数の基準 |
現在~2022年9月 | 501人以上 |
2022年10月~2024年9月 | 101人以上 |
2024年10月~ | 51人以上 |
パート先の社会保険に入らないように「労働時間」を調整している人は、今後の適用拡大をふまえ、2022年を転職の年として検討しなければならない人も出てくるかもしれません。
士業がねらい目!? 社会保険に加入せずもっとも稼げる職場
パートが職場の社会保険に入らないですむ基準は徐々に狭まってきています。一方でこの制度にはひとつの抜け道が存在します。
抜け道というと悪いことのように聞こえるかもしれませんが、法律で認められているものなので安心してください。その方法は社会保険の「強制適用事業所」以外で働くことです。「強制適用事業所」にならない職場とは会社以外の個人事業所や自営業のお店などです。
具体的に確認していきましょう。まず、以下の業種に該当する個人事業所で常時の従業員の数が4人以下であれば、強制適用事務所ではなくなり職場に社会保険の制度がない可能性があります。
- 物の製造、加工、選別、包装、修理又は解体の事業
- 土木、建築その他工作物の建設、改造、保存、修理、変更、破壊、解体又はその準備の事業
- 鉱物の採掘又は採取の事業
- 電気又は動力の発生、伝導又は供給の事業
- 貨物又は旅客の運送の事業
- 貨物積卸しの事業
- 焼却、清掃又はとさつの事業
- 物の販売又は配給の事業
- 金融又は保険の事業
- 物の保管又は賃貸の事業
- 媒介周旋の事業
- 集金、案内又は広告の事業
- 教育、研究又は調査の事業
- 疾病の治療、助産その他医療の事業
- 通信又は報道の事業
- 社会福祉法に定める社会福祉事業及び更生保護事業法に定める更生保護事業
上記に当てはまらない個人事業所であれば、従業員が何人いても強制適用事業所の扱いにはなりません。弁護士事務所や税理士事務所などの士業、個人経営の飲食店や美容院などの接客サービス業、農業や畜産業などが当てはまります。
これらの職場を選べば、社会保険の加入条件におびえることなく働くことができます。
強制適用事務所以外で働くときの注意点
強制適用事業所に該当する職場がすべて社会保険に入れないかというと、そうではありません。従業員(被保険者となるべき者に限る)の2分の1以上の同意があり、必要な手続きを経れば、適用事業所となることができます。このような形で社会保険に入る事業者のことを任意適用事務所と言います。
転職時は、その職場の業種や従業員数だけを見るのではなく、社会保険の適用状況を確認するようにしましょう。
また、職場の社会保険に入りたくない理由が「配偶者の扶養から出たくないから」であれば、うっかり配偶者の被扶養者認定から外れないようにしなければなりません。被扶養者であるための条件特に有名なのは被扶養者の「年間収入が130万円未満」であることです。「130万円の壁」と呼ばれたりもします。こちらの収入には通勤手当含まれるので注意してください。保険組合によってはさらに「連続する3ヵ月の平均収入月額が108,334円未満であること」や「扶養認定から引き続く12ヵ月どこをとっても130万円未満であること」といった追加の条件を設けているところもあります。「130万円未満」であれば絶対に大丈夫とはなりませんので注意しましょう。
雇用保険と労災保険だけ加入はあり?
ここまでは社会保険を狭い意味で捉え、健康保険と厚生年金保険、介護保険のみについて説明してきましたが、広い意味で社会保険を見る場合は雇用保険と労災保険も含むことがあります。
雇用保険と労災保険へ加入することと、配偶者の被扶養者であることには直接的案利害関係はありません。雇用保険と労災保険だけ加入することはアリなのでしょうか?
失業したときの心強い味方「雇用保険」
失業したときの心強い味方「雇用保険」
雇用保険のメリットは失業したときにお金がもらえたり育休の取得ができる点です。とくに失業給付は大きなメリットです。デメリットは毎月保険料の負担があることです。保険料は収入の0.3%になる人が大多数です。収入が8万円であれば240円が毎月の給料から差し引かれます。保険料負担もそれほど高くはないので、メリットデメリットを天秤にかけたら加入しておきたい、と思う人が多いのではないでしょうか。
パートが雇用保険に入るのは31日以上の雇用見込みがあり、週20時間以上働いている場合なので雇用保険だけ入ることは可能です。
雇い主が全額負担で保障も充実「労災保険」
労災保険は雇用保険よりさらに加入条件が緩やかです。パートとして勤めるならほぼ無条件で加入できます。
労災保険の保険料は全額事業者が負担するので、給料から天引きされることはありません。仕事中や通勤途中に事故・ケガに備える大切な保険です。雇い主には契約期間や労働時間にかかわらず原則すべての被雇用者を労災保険に加入させなければならない義務があります。
例外は、5人未満の従業員を使用する個人事業の農林水産です。この条件に該当する職場でパートをしている人は労災保険の加入できるかどうかを確認しておく必要があります。
ファイナンシャルプランナーからの挑戦!
パートの社会保険について理解できたかな!?
ここで私からの挑戦状です。社会保険への加入条件について理解が深まったか、セルフチェックしてみてください!
初級編
Q:勤め先で社会保険に入らないためには、月の稼ぎをいくらまでにすればよいか、説明してください。
ポイント解説:月額でこの金額を超えていなければ、勤め先で社会保険に入ることは実質的にないと考えていいでしょう。答えはぞろ目ですよ。
中級編
Q:2022年10月に大きく変わる社会保険のルールについて、説明してください。
ポイント解説:パートでも社会保険に入れるように加入条件を拡大する施策が段階的に進んでいます。これまでは大企業だけに適用されていたルールが、中小企業にも徐々に落とし込まれていきます。
上級編
Q:配偶者の扶養から外れずに最大限稼ぐことができるのは、どんな職場で、いくらまで稼げるか、考えてください。
ポイント解説:社会保険適用事務所にならない職場はどんな仕事場かを考えてみましょう。社会保険の扶養控除は「何万円の壁」と呼ばれるもののひとつです。この金額を諳んじて言えるかがポイントです。