労災保険とは。自己負担0円のセーフティネット労災保険の「きほん」

2019-06-19

安心を象徴するハートマーク

 キミが払う保険料をギブ、保険のサービス内容をテイクとして社会保険を説明している。理解がスムーズで分かりやすくなるからね。ところが社会保険のなかで唯一、労災保険にはギブがない。いったいどんな仕組みなんだろう。

このページで想定する読者は主に会社員(契約社員やアルバイトも含む)として常時雇用され報酬を得ている人です。また勤め先のことを総称として「会社」と表現しています。

労災保険加入をこっそり確認する方法。

 稼いだおカネから天引きされる社会保険料。給与明細を見ればどの保険にいくらの保険料をギブしているかわかる。労災保険はどこにあるかな?

給与明細の例

 ……、ないよね労災保険。

 労災保険が給与明細にない理由はキミが保険料を払っていないからだ。払うことをごまかしているわけではないし、手続き上のミスでもない。労災保険の保険料を払っているのは会社。会社が全額負担しているんだ。だから給与明細には金額はおろか項目さえのっていない。でも、本当に会社は労災保険に入っているのだろうか。「イケイケのあの社長が労災保険のことなんて配慮してくれているとは思えない」。あるいは、「学生時代に1日限りで終わったあのアルバイト先の会社はどうだったんだろう。工事現場の仕事で今思えばケガのリスクはあったけど労災保険についてなんの説明もなかった」。

 心配はつきないが大丈夫。どちらのケースも会社は労災保険に加入している。労災保険への加入は会社の義務だ。「義務でも加入しているとは限らないじゃないか!」なんて疑い深い。社会人の適正◎だ。なら自分で調べてみよう。何も社長に聞く必要はない。厚生労働省のホームページから検索できる。

会社が労災保険に入ってなかった。どうなる?

 万に一つ、勤めている会社が労災保険に加入していなかったら。転職を考えるべきだろう。労災保険は従業員を守るもの。労災保険に加入しないのは社員を守る気がないからと思われても仕方がない。そんな会社に未来を託せるかい?

 不幸にも労災保険に加入していない会社で仕事中にケガをしてしまったらどうなる?運が悪かったと諦めるしかないのだろうか。安心して。労災保険に加入していなくても労災保険はキミを守ってくれる。労災保険に加入している会社で働く人とサービス面で差をつけられることもない。

病院での労災保険と健康保険は似て非なるもの。

 会社勤めであれば(給与明細に何も書いていなくても)労災保険に守られていることがわかったと思う。では、労災保険はどんなときに使うものなのだろうか。例をあげてみよう。

 ある朝のこと。通勤ラッシュのさなかでごった返す駅。キミは後ろから押されてプラットホームでまさかの転倒。運悪くベンチの角に顔面をしこたま打ち付けた。よく見れば血も出ている。病院で止血したほうがいいかもしれない。健康保険証は財布に入っている。健康保険の自己負担は3割。これ社会人の常識!

 で、病院にいって健康保険を使って治療したらこれはもう完全にアウトだ。このケースは健康保険ではなく労災保険を使わなければならない。「ならない」と言い切ったけど、これは法律的にそう決まっている。仕事中または通勤途中のケガはすべて労災保険を使わなければならない。

 労災保険はキミのメリットも大きい。健康保険で治療を受けたら病院でキミは治療費の3割分のおカネを払うよね。労災保険はキミの負担額は0円だ。ゼロだよ、ゼロ。同じ病院で治療を受けるでもサービスのレベルはまるで違う。実は多くの社会人が労災保険と健康保険の区別をはっきりつけられず、ついつい馴染みのある健康保険を悪気なく利用してしまっている。それは結果として法律を無視し、金銭的にも損をしていることなんだ。

認定前でも使える労災保険。

労災保険はどっちが先?

  労災保険を使えば病院でキミが負担する治療費がゼロになることがわかった。労災保険が指定の病院を通じて治療を現物支給で提供するというイメージだ。ここで悪魔のささやきが登場する。「このケガも、あの病気もぜーんぶ労災保険の対象にならないだろうか」。

 悪魔に対抗する線引きが必要だ。線を引くことをケガや病気に対する労災認定と呼ぶ。労災認定されればそれは仕事と関係のあるケガや病気ということになる。治療費ゼロの権利を手にするわけだ。この認定をするのは「労働基準監督署」であって会社ではない。会社との関係でいえば完全な第三者と言える。

 ただし、手続き上は会社の協力や指示を仰ぐほうがラクだ。なぜか?労働基準監督署による労災認定には当然ながらそれなりに日数がかかる。病気であれケガであれ労災認定されるのを待ってから病院に行くでは遅すぎるよね。

 労災認定されるまでの間にも治療費は発生している。会社側の協力でスムーズになるのはこの部分だ。認定前であってもキミが治療費や薬代を負担することないように段取りを立ててくれる。具体的には行く病院の指示とその病院に提出する書類の準備だ。この手のことは直接の上司に聞くより人事担当に相談するのがよいだろう。

 ときにはもっと急を要することもある。たとえば会社から遠く離れた営業先でケガをして病院に運ばれたら。同行者に労災に詳しい人はいない。なにより病院に連れていくのが先決だろう。病院を選択する余地はなく書類の提出もかなわない。このケースで大事なことは病院側に労災であることを労災認定前であっても伝えることだ。労災認定前で書類もないので初診の治療費は全額ジブンで支払うことになるかもしれないが、書類がそろえば後ほど全額が返金される。健康保険で治療を受けると後で労災保険に切り替える手続きが煩雑で面倒だ。あまりに面倒なので結局健康保険で済ませてしまう人もいるがそれは法律的にもNGだし、経済的にも無駄だ。

 仕事中または通勤途中の事故はすべて労災保険を使うことを心にとめておこう。

ウソorホント?労災保険の都市伝説。

 労災保険には都市伝説がある。それは「従業員が労災保険を使うことを会社が嫌がる」というものだ。会社の心象を悪くしたら今後の出世や昇給に影響するんじゃないか。最悪のケースではクビを切られるのではないか。見えない恐怖におびえ労災保険の利用を躊躇してしまう。なぜ会社は労災保険を嫌がるのだろう?

 真っ先に思い浮かぶ理由は会社が労災保険に加入していないケースだ。これはすでに紹介したとおり厚生労働省のホームページから検索し確認できる。このケースはいろいろな意味で最悪だ。もし会社が労災保険に加入していないことを理由にキミに労災保険ではなく健康保険を使うよう指示したらどうする?キミは会社を辞める覚悟で労災保険を使うか、会社と一蓮托生で運命をともにする覚悟で健康保険を使うかどちらかだろう 。前者は会社のみ違法。後者は会社とキミが違法なことをしていることになる(第三の選択肢、会社に労災保険に加入するよう諭すことは可能だろうか?)。

 ほかにも会社が労災保険を嫌がる理由はある。労災保険を使うことによる会社イメージの低下や、会社が負担する労災保険料の値上がりの危惧、単に手続きが面倒だからやりたくないなど。どれも正当な理由ではない。こんなバカげた理由で労災保険を使わせない会社があるのだろうか、といぶかしく思うが、厚生労働省が把握し発表しているリストには平均月に3~5件くらいは労働保険が適切に運用されていない事案が存在している。2017年には日本郵便株式会社のような大企業がこのリストに名を連ねている。「会社が労災保険を使うことを嫌がる」は都市伝説というほど無邪気なものではないかもしれない。

 労災保険は会社の協力があるとスムーズにコトが進むのは確かだ。一方で会社が労災保険を嫌がる可能性もふまえなければならない。幸いなことに労災を認定するのは労働基準監督署であり、会社の協力が得られなくても労災を申請することはできる。労災保険の相談先は労働基準監督署。この大前提は重要だ。労働基準監督署は全国に300以上ありそれぞれに管轄エリアがある。相談先は勤めている会社の住所を管轄する労働基準監督署だ。支社や営業所に勤務しているならそこが労働基準監督署を探す際の基準になる。厚生労働省のホームページで簡単に探すことができる。

労災保険のサービスをまとめてみる。

  労災保険を利用する可能性が高いのは病気やケガで病院にかかる場合だが、それ以外のケースに対しても労災保険が使えることがある。これまで紹介してこなかった労災保険のサービス内容をまとめておこう。

労災事故が原因で休業し、賃金が受け取れないときにもらえるおカネ 休業ホショウ給付
(休業給付)
労災事故が原因で療養し、その疾病が治らなかったときにもらえるおカネ 傷病ホショウ年金
(傷病年金)
労災事故が原因で、障害が残ったときにもらえるおカネ 障害ホショウ給付
(障害給付)
労災事故が原因で、介護状態になったときにもらえるおカネ 介護ホショウ給付
(介護給付)
労災事故が原因で、死亡したときに遺族がもらえるおカネ 遺族ホショウ給付
(遺族給付)
労災事故が原因で、死亡者の葬祭を行うときにもらえるおカネ 葬祭料
(葬祭給付)

 労災保険はキミが保険料をギブすることなく、テイクだけが存在する唯一の社会保険だ。もちろん病気やケガがないに越したことはないが大前提になるが、いざというときに労働者にはとても心強い制度といえるだろう。

執筆者紹介

鈴木玲
ファイナンシャルプランナー

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