健康保険とは。格差と損得で知る健康保険の「きほん」

2019-06-18

黒板に書かれたgood hearth

 健康保険の世界へようこそ。このページで学ぶことは健康保険料の基本だ。理解をスムーズにするため払った保険料をギブ、保険のサービス内容をテイクとして考えてみるよ。

このページで想定する読者は会社員(契約社員やアルバイトも含む)や公務員として常時雇用され報酬を得ている人です。また勤め先のことを総称として「会社」と表現しています。

1円でも健康保険料を安くするには?

 キミの健康保険料は稼いだおカネ (以下「報酬」と呼ぶよ) から天引きされている。その額は報酬のおよそ5%くらいの人が多い。20万円なら1万円、30万円なら1.5万円程度をキミは健康保険料としてギブしていることになる。額がもっと低い人もいる。低い人は報酬の3%くらいに抑えられる。20万円なら6,000円、30万円なら9,000円程度だ。これって結構違うよね。健康保険料を1円でも少なくするにはどうしたらいいのだろうか。

 答えは「健康保険料率が低く本人負担割合が低い健康保険組合の組合員になればいい」。暗号文か何かのようだね。ていねいな説明を試みよう。どの組合に入るかは会社が決めている。社員が個別に入りたい組合を決めることはできない。つまりキミは会社を選ぶと同時に健康保険組合も決めていることになる。「健康保険料率が低く本人負担割合が低い健康保険組合の組合員に」なるためには、入社前に会社がどの組合に加入しているのかを確認し、その比較をしなければならない。

社員と会社と組合の関係図

大胆判定。おトクな組合、ソンする組合。

 健康保険組合の総数は1500近くある(平成29年版厚生労働白書)。かなりの数だね。1500の組合がそれぞれ独自のルールで健康保険についての決めごとをしている。すべての組合の事情をつまびらかにすることはムリだ。幸い組合は次の3つのいずれかにカテゴリ分けできる。協会けんぽ組合健保共済組合だ。この単位で健康保険を眺めてみたい。

 一番大事なのはキミが負担する健康保険料だね。これはキミの報酬と組合が定める健康保険料率、自己負担割合によって決まる。図で表すと次のとおりだ。数字は協会けんぽのものを例として使っているよ。

報酬と保険料の総額、自己負担額の図

  上図のクリーム色の自己負担部分が健康保険料として天引きされる額に該当する。

 では3つのカテゴリーそれぞれの健康保険料率と本人負担割がどうなっているのかを見てみよう。健康保険料率が低く本人負担割合が低ければクリーム色の面積(天引きされる額)はおのずと小さくなる。

(表)健康保険料率と本人負担割合の平均値

健康保険料率本人負担割合
協会けんぽ10.00%50.0%
組合健保9.03%45.6%
共済組合9.24%50.0%

 「健康保険料率が低く本人負担割合が低い」のは組合健保のようだ(ただし組合健保に加盟する組合の平均であることは忘れないでね)。ためしに報酬が20万円のときに天引きされる健康保険料額をカテゴリーごとに計算してみよう。()内は報酬に対する天引き額の割合だ。

協会けんぽ10,000円(5%)
組合健保8,235円(4.1%)
共済組合9,240円(4.6%)

 がぜん組合健保に興味がわいてくるよね。組合健保に加入する会社はどんな会社だろう。一般的には大企業とされる会社が当てはまることが多い。ためしに思い当たる「大企業名」と「健康保険組合」の2つの単語で検索をしてみるといい。トヨタ自動車、ソニー、三菱商事、イオンetc…。かなりの確率で会社名を冠した健康保険組合のホームページが出てくる。健康保険組合によってはホームページ上で保険料率、本人負担割合を公表しているところもある。トヨタ自動車健康保険組合であれば保険料率は8.3%、自己負担割合は36.2%。報酬に対する天引き額の割合はなんと3%だ!(2019年現在)。

 組合は一部の大会社が単独でつくる組合、関連会社が集まる組合、同一の業界に所属する会社が集まる組合などがある。健康保険料・自己負担割合はそれぞれの組合が決定するため組合健保内でも組合ごとに数値が違う点は注意しておこう。

組合健保の概略図

 では、公務員はどうだ?安定と信頼の公務員。公務員が所属する組合は共済組合に内包される。具体的な組合として国家公務員なら財務省共済組合、総務省共済組合、文部科学省共済組合など。国家公務員の組合はホームページで情報を公開しているところが極端に少ない(これは陰湿だ)。平均値を調べると報酬に対する天引き額の割合は4.1%くらいになっているので条件はかなりいいほうだ。一方で地方公務員(地方職員共済組合、公立学校共済組合、市町村職員共済組合etc…)は同4.8%くらいだから、公務員を目指すなら国家公務員がよい。

共済組合の概略図

 最後は協会けんぽ。協会けんぽは多くの中小企業とその社員からなるひとつの組合で加入者数はなんと3,800万人を超える。健康保険料率10%、自己負担割合50%と覚えやすい数値がウリだがこれはあくまで平均値。実際にはどちらの数値も都道府県ごとの支部が決めていて多少のばらつきがある。

協会けんぽの概略図

 ここまで健康保険料(ギブ)について見てきた。高い評価を得ているのは3つのカテゴリーのなかでは組合健保だが、最終判断は保険のサービス(テイク)とのバランスで決めるべきだろう。

全組合共通。健康保険のサービス一覧。

 たとえばキミが病院で診察を受け、その診察費と薬局での薬代として合計3,000円を支払っていたとする。このケースで本当の意味での診察費と薬代の合計は1万円だ。キミは健康保険に加入しているおかげで3割(3,000円)の負担ですんでいる。残りの7割(7,000円)は健康保険によるサービスだ。これが一般に「医療費の3割負担」といわれるもの。「3割しか負担しなくていい」。(3割が適正化どうかの議論はあるにせよ)これが健康保険の加入でキミが得るテイクだ。どの組合であってもそれは変わらない。

健康保険の自己負担割合の図

 全組合で共通の健康保険のテイクはほかにもあるので触れておこう。テイクはいくつあっても困らない。

療養の給付 日常生活の病気やケガについて治療を受けることができる。
高額療養費月間の医療費の自己負担額が一定の金額(自己負担限度額)を超えると、超過部分が払い戻される制度。
出産育児一時金 出産した場合、一児につき42万円が支給される。
出産手当金 出産のため会社を休み、報酬が受けられない場合に、出産前の42日間、出産後の56日間の範囲でおカネが支給される。
疾病手当金 病気やケガのため会社を休み、報酬が受けられない場合に、休業4日目から最長1年6ヵ月間の範囲でおカネが支給される。
埋葬料亡くなったときは、埋葬を行う人に埋葬料5万円が支給される。

 これだけあれば健康保険がキミの助けになってくれる可能性は高いのではないだろうか。

組合間格差の象徴。付加給付制度とは?

 ここからは組合ごとに差がつく内容になる。一部の組合が独自に行っている付加給付制度(「一部負担金払戻金」「療養費付加金」という呼び名になっていることもある)は大きな病気やケガにあったときの貢献度はかなり高い。どんな制度かというとひとりあたりの一ヵ月自己負担額に上限を決めそれ以上は払わなくていいようにしてくれるものだ。高額療養費の考え方と同様だが付加給付制度があると高額療養費の定める上限よりもさらに自己負担を少なくすることができるんだ。

付加給付制度による自己負担額の違い

 例として高額療養費制度だと自己負担80,100円/月だったものが、付加給付制度のおかげで25,000円/月まで減らせるといったイメージだ。付加給付制度が定める上限額は組合ごとに違うので、制度の有無とあわせて確認しておこう。付加給付制度が充実していれば民間の医療保険へ加入しなくてもいいかもしれない。その分の費用がまるまる浮くという考え方ができるよね。

 残念ながら協会けんぽでは付加給付の制度は実施されていない。

優良組合ならレジャーさえも安くなる。

 病院に何度も行く人は払った保険料以上のテイクを受けているだろう。一方でまったく病院に行かない人からすれば支払ったギブ(保険料)ばかりが目について仕方ないかもしれない。この手の不公平感は社会保険にはつきものだ。保険料は給料から天引きされて自分ではどうすることもできないから余計にやきもきする。

 もしキミが病院のお世話になることはないと断言でき、ただただ保険料を払うことが心理的ストレスだ、というなら少しはそれをやわらげる方法もある。健康保険の組合員特典を利用することだ。特典は組合ごとに違うがいくつか例をあげてみよう。

・宿泊施設が安く利用できる。

 組合が保有している施設や契約施設(一般のホテルなど)の割引などがある。組合保有施設なら豪華施設がリーズナブルな料金で利用できることも。

・レジャー施設が安く利用できる。

 契約施設の入場料など割引などがある。東京ディズニーランドのような人気施設と契約している組合もある。

・スポーツ施設が安く利用できる。

 契約施設(一般のスポーツジムなど)の入会金無料や利用料の割引などがある。野球場やサッカー場、フットサルコートなど場の提供をすることも多い。

 なかには新築マンションの値段を1%オフ(4000万円の物件なら40万円!)にしたり、ツアー旅行に対して1万円を補助したする組合もあった。すべての組合を調査したわけではないが、傾向としては組合健保のサービスが充実していた。

いつまで維持できる?組合健保の憂鬱。

  保険料をギブ、保険のサービス内容をテイク として健康保険を眺めてみた。加入するならどの健康保?と聞かれたら即答できるよね。

健康保険組合のランキング

 ギブの度合い、テイクの充実度からしてもこれは明らかだ。だが組合健保の将来がバラ色かと言えばそうとは限らない。そのことは当の組合健保自身が認め、警鐘を鳴らしてもいるんだ。組合健保では2022年危機として平均保険料率の平均が9.8%(2019年時点9.218%)へ上昇。保険料率が10%を超える組合数は601(2019年時点302)組合へと悪化する見通しを立てている。2019年には日本で2番目の規模を持っていた「人材派遣健康保険組合」が解散し協会けんぽへと移行している。解散までいかずとも財政的に厳しい組合は保険料率を引き上げたり、テイクの一部を停止する可能性はある。健康保険をとりまくトレンドとしてこれらのことは抑えておいたほうがいいだろう。

執筆者紹介

鈴木玲
ファイナンシャルプランナー

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