健康保険とは。格差と損得で知る健康保険の「きほん」

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健康保険の世界へようこそ。このページでは健康保険料の基本を学んでいきます。

このページで想定する読者は会社員(契約社員やアルバイトも含む)や公務員として常時雇用され報酬を得ている人です。また勤め先のことを総称として「会社」と表現しています。

1円でも健康保険料を安くするには?

健康保険料は給料 (以下「報酬」と呼ぶよ) から天引きされます。その額は報酬のおよそ5%くらいになる人が多いでしょう。報酬が20万円なら保険料は1万円、30万円なら1.5万円程度を、あなたは健康保険料としてギブしています。

額がもっと低い人もいます。なかには保険料が報酬の3%くらいに抑えられる人もいます。報酬が20万円なら保険料は6,000円、30万円なら9,000円程度の計算です。1年単位、10年、20年単位で見るとこの差は相当なものです。

健康保険料を1円でも少なくするにはどうしたらいいのでしょうか。

答えを先に言ってしまうと「健康保険料率が低く本人負担割合が低い健康保険組合の組合員になればいい」となります。まるで、暗号文か何かのようですね。

少しずつひも解いてみましょう。所属する健康保険組合は会社が決めます。社員は会社の所属する健康保険組合の組合員になります。社員がバラバラに入りたい健康保険組合を決める、ということはできません。つまり会社を選ぶときは、同時に健康保険組合を決めていることになります。

つまり「健康保険料率が低く本人負担割合が低い健康保険組合の組合員に」なるためには、入社前に会社がどの組合に加入しているのかを確認し、その比較をしなければなりません。

大胆判定。おトクな組合、ソンする組合

健康保険組合の総数は1500近くあります(平成29年版厚生労働白書)。かなりの数です。1500の組合がそれぞれ独自のルールで健康保険についての決めごとをしている。

すべての組合の事情をつまびらかにすることは難しいので、ここでは健康保険組合の一般的なカテゴリ分けに従って様子を見ていくことにします。そのカテゴリーとは協会けんぽ組合健保共済組合です。

気になるのはあなたが負担する健康保険料ですね。健康保険料は「あなたの報酬」「健康保険料率」「自己負担割合」によって決まります。このうち組合間で差がでるのは「健康保険料率」と「自己負担割合」です。具体的な数字を確認しましょう。

(表)健康保険料率と自己負担割合の平均値

健康保険料率本人負担割合
協会けんぽ10.00%50.0%
組合健保9.03%45.6%
共済組合9.24%50.0%

平均値で見る限り、「健康保険料率」「自己負担割合」ともに低いのは組合健保です。ためしに報酬が20万円のときに天引きされる健康保険料額を計算してみましょう。()内は報酬に対する天引き額の割合です。

協会けんぽ10,000円(5%)
組合健保8,235円(4.1%)
共済組合9,240円(4.6%)

組合健保

数値上のリードが明らかなのは組合健保です。組合健保に加入する会社はどんな会社でしょうか。一般的には大企業とされる会社が当てはまります。「大企業名」と「健康保険組合」の2つの単語でネット検索をしてみましょう。トヨタ自動車、ソニー、三菱商事、イオンetc…。かなりの確率で会社名を冠した健康保険組合のホームページがヒットします。健康保険組合によってはホームページ上で保険料率、本人負担割合を公表しています。トヨタ自動車健康保険組合であれば保険料率は8.3%、自己負担割合は36.2%です。これは報酬に対する天引き額の割合にすると「3%」です!(2019年現在)。

組合には一部の大会社が単独で作る組合、関連会社が集まって作る組合、同一の業界に所属する会社で構成される組合などがあります。健康保険料率、自己負担割合は各組合が決定するため組合健保内でも組合間で数値が違う点は注意しましょう。

共済組合

公務員はどうでしょうか?安定と信頼の公務員。健康保険も手厚いに違いありません。

公務員が所属する組合は共済組合に内包されています。国家公務員なら財務省共済組合、総務省共済組合、文部科学省共済組合などです。残念ながら国家公務員の組合はホームページで情報を公開しているところがとても少ないです。平均値では報酬に対する天引き額の割合は4.1%くらいになるので、条件はかなりいいほうだと思われます。地方公務員(地方職員共済組合、公立学校共済組合、市町村職員共済組合etc…)では同4.8%くらいになるので、国家公務員のほうが低負担です。

協会けんぽ

最後は協会けんぽ。協会けんぽは多くの中小企業とその社員からなるひとつの組合で加入者数は3,800万人を超えています。健康保険料率10%、自己負担割合50%と覚えやすい数値がウリですがこれは平均値です。実際の数値も都道府県ごとの支部が決めてるため、地方によって多少のばらつきがあります。

全組合共通。健康保険のサービス一覧

ここまで健康保険料(ギブ)について見てきました。高い評価を得ているのは3つのカテゴリーのなかでは組合健保です。ただし、最終判断は保険の給付(テイク)とのバランスで決めるべきでしょう。

たとえば、あなたが病気になり病院で診察を受けることになったら、その診察費と薬代を払います。この金額は組合ごとに違うのでしょうか?

病院窓口で治療費を3,000円を支払った場合で考えてみましょう。このケースでは実際にかかっている診察費は1万円です。健康保険では医療費の3割(3,000円)を自分で負担することになっています。残りの7割(7,000円)は健康保険の給付(テイク)です。これは一般に「医療費の3割負担」といわれるものでどの組合であってもそれは変わりません。

全組合で共通の健康保険のテイクはほかにもあるので触れておきます。

療養の給付日常生活の病気やケガについて治療を受けることができます。
高額療養費月間の医療費の自己負担額が一定の金額(自己負担限度額)を超えると、超過部分が払い戻されます。
出産育児一時金出産した場合、一児につき42万円が支給されます。
出産手当金出産のため会社を休み、報酬が受けられない場合に、出産前の42日間、出産後の56日間の範囲で手当金が支給されます。
疾病手当金病気やケガのため会社を休み、報酬が受けられない場合に、休業4日目から最長1年6ヵ月間の範囲で手当金が支給されます。
埋葬料亡くなったときは、埋葬を行う人に埋葬料5万円が支給されます。

これだけあれば健康保険が助けになってくれる可能性も高いのではないでしょうか。

組合間格差の象徴。付加給付制度とは?

ここからは組合ごとに差がつく内容です。一部の組合が独自に行っている付加給付制度(「一部負担金払戻金」「療養費付加金」という呼称もあります)は、大きな病気やケガにあったときの貢献度はかなり高いです。これはひとりあたりの1ヵ月自己負担額に上限を決めそれ以上は払わなくていいようにしてくれるものです。高額療養費も同様の考え方ですが付加給付制度があると高額療養費の定める上限よりもさらに自己負担額が少なくなります。たとえば高額療養費制度では自己負担80,100円/月だったものが、付加給付制度で25,000円/月まで減らせるとうことがあります。

付加給付制度が定める上限額は組合ごとに違うので制度の有無とあわせて確認しましょう。付加給付制度が充実していれば民間の医療保険へ加入する必要もないかもしれません。

残念ながら協会けんぽでは付加給付の制度は実施されていません。

優良組合ならレジャーさえも安くなる

病院に何度も行く人は払った保険料以上の給付を受けているでしょう。一方でまったく病院に行かない人からすれば支払った保険料ばかりが目について仕方ないかもしれない。この手の不公平感は社会保険にはつきものだです。保険料は給料から天引きされて自分ではどうすることもできないから余計にやきもきしてしまいますよね。

もしあなたが病院のお世話になることはないと断言でき、ただただ保険料を払うことが心理的ストレスだというなら、そんなささくれだった気持ちを少しやわらげる方法もあります。健康保険の組合員特典を利用することです。どんな特典があるのか、いくつか例をあげてみます。

・宿泊施設が安く利用できる。

組合が保有している施設や契約施設(一般のホテルなど)の割引などがあります。組合保有施設なら豪華施設がリーズナブルな料金で利用できることも。

・レジャー施設が安く利用できる。

契約施設の入場料など割引などがあります。東京ディズニーランドのような人気施設と契約している組合もあります。

・スポーツ施設が安く利用できる。

契約施設(一般のスポーツジムなど)の入会金無料や利用料の割引などがあります。野球場やサッカー場、フットサルコートなど場の提供をしている組合も多いです。

ほかには新築マンションの値段を1%オフ(4000万円の物件なら40万円!)にしたり、ツアー旅行に対して1万円を補助したする組合もあります。

いつまで維持できる?組合健保の憂鬱

健康保険組合のなかでも特に組合健保の優位性が目につきました。ただし組合健保の将来がバラ色かと言えばそうとは限りません。そのことは当の組合健保自身が認め、警鐘を鳴らしてもいます。

組合健保では2022年危機として平均保険料率の平均が9.8%(2019年時点9.218%)へ上昇すると見込んでいます。また、保険料率が10%を超える組合数は601(2019年時点302)組合へと悪化する見通しです。10%を超えたら今の協会けんぽより条件としては悪くなります。

実際に起こったこととして、2019年に日本で2番目の規模を持っていた「人材派遣健康保険組合」が解散し協会けんぽへと移行しました。組合の解散までいかずとも財政的に厳しい組合は、今後保険料率を引き上げたり、給付の一部を停止する可能性もあります。

健康保険をとりまくトレンドとしてこれらのことは抑えておいたほうがいいでしょう。

執筆者

鈴木玲(ファイナンシャルプランナー/住宅ローンアドバイザー)

出版社、Webメディアで企画・制作を手掛けたのちに、メディアプランナーとして独立。それまで無関心だった社会保険や税金、資産運用に目覚める。主に若年層に対して社会の仕組みやお金の役割について経験をもとに、わかりやすく伝える。

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