働いて払う税金で真っ先に思いつくのが所得税という人は多いでしょう。所得税も大事な税金ですが、税の負担という点では住民税を忘れることはできません。会社員では、所得税よりも住民税を多く払っているという人が大半です。
住民税の税率は何%?
住民税の計算には、住民税の税率が必要です。消費税の税率は誰でも知っているのに、住民税の税率を即答できる人は意外と多くありません。
住民税の税率は10%です。そう、消費税と同じなんです。こうやって覚えてしまえば、住民税の税率はこの先も忘れないでしょう(消費税の税率が変わってしまう可能性はありますが)。
住民税がいくらになるか。計算が簡単ではない理由
税率が10%であることが分かれば、住民税を計算するのは簡単なようですが、そうでもありません。
たとえば消費税なら商品の価格があり、その10%が消費税です。では、住民税における「商品の価格」に該当するものはいったい何なのでしょうか。
これがテストなら答えに「課税標準額」と書けば丸がもらえます。しかし言葉を知っているだけでは、住民税の税額は計算できません。自分の課税標準額がいくらかを、いったいどれだけの人が即答できるのでしょうか(たぶん、8割から9割の人は答えられないと思います)。
だからと言って、住民税がいくらになるかまったく分からないままというのももったいない話です。まずは、ざっくり目安の金額を知ることから始めましょう。
住民税をざっくり計算したい人のための計算式
ざっくりの中でも、とりわけざっくり感が際立つものをまずは紹介します。この方法の場合、課税標準額を気にする必要もありません。年収に目安となる割合をかければ、ざっくりと住民税がいくらになるか分かります。
年収 | 住民税の割合 |
200万円超から300万円まで | 3.5% |
300万円超から500万円まで | 4.5% |
500万円超から900万円まで | 5.5% |
これは、住民税はこれくらい払っているんだ、とぼんやりイメージしたいときに使うレベルのものです。言葉は悪いですが「計算しないよりはまし」というものだと考えてください。
というのも、住民税の金額に影響を与える要素は収入以外にもあるからです。
たとえば、家族構成。シングルよりも配偶者、子ども、両親など一緒に暮らす家族が多いほうが、税金が安くなる可能性は高いです。生命保険に入っている人、iDeCoをやっている場合も税金は安くなります。
このような税金を引き下げる条件を「所得控除」と言います。所得控除は所得税を安くする効果がありますが、同時に住民税の金額にも関係しているのです。
上の目安税率は、所得控除がほぼ該当していないものとして設定した数値です。もし所得控除が多いことを自覚しているのであれば、計算結果よりも住民税はさらに安くなるかもしれません。
源泉徴収票がある人が住民税を計算する場合
源泉徴収票が手元に用意できるなら、もう少し精度の高い計算ができます。一般的な源泉徴収票のスタイルを使って、説明をします。下の画像を見てください。
まず、「給与所得控除後の金額」(薄い黄色が塗ってある部分)から、その隣の「所得控除の額の合計額」を引いてください。引いて出た数値を課税標準額とみなし、×10%をすれば住民税がいくらになるか、おおよその数値が出ます。
けっこう、簡単ですよね。
もちろん、ざっくり計算なのでこれも正確ではありません。その理由を説明するとせっかくのざっくり感が失われてしまいますので、ここではしません。
しかし最初に紹介した【年収×目安割合】に比べれば格段に精度は上がっています。源泉徴収票があるならぜひ利用したい計算方法です。
住民税を正確に計算するために必要な予備知識
ここからは住民税がいくらになるか、ではなく「どのように計算されていくのか」その仕組みの解説に重きを置いて話を進めていきます。自分の住民税がいくらになるかを正確に知りたい人は、この先を読んでも残念ながら、その答えは出てきません。
なぜ、具体的な計算をしないのか。それは住民税を正確に説明することが、とても難しいからです。
理由その1。一部の地域で住民税の税率が異なるため、標準的な説明では正確な計算にならないから。横浜市や名古屋市が税率が異なる一部地域に該当します。
理由その2。金額的な影響は少ないけれど説明の手間がやたらと必要なものや、ほとんどの人には該当しないけれど説明せざるを得ないものがあるから。これについては武蔵野市(東京都)のホームページに住民税の計算方法が図式化されていますので、そちらを見ながら説明したいと思います。
たとえば(5)の「調整控除」は調整という言葉が示すように税額に与えるインパクトはそれほど大きくありません。また、(6)の「税額控除」と(7)の「配当割額…」は該当する人の方が少数ですが、該当する場合はその条件を長々と説明しなければなりません。
住民税を計算する側の人であれば、当然これらをすべて理解し計算できなければならないでしょうが、一般の人がここまで理解する必要性はあまり高くないですし、労力をかけた分に見合うほどの益は得られないでしょう。
そこでこの記事では、住民税の仕組みの部分で特に大切なこととして、次の2つにポイントを絞ります。それは住民税の種類と、課税標準額です。
住民税の種類
武蔵野市の住民税の計算方法の例を見ると、実は住民税がいくつかの項目に分かれていることに気が付きます。
まず、市民税と都民税に分けられていますが、これは知らなくても問題ありません。住民税の税率10%の内訳として市民税(市町村税)6%、都民税(都道府県税)4%があるだけのことです。
そこよりも重要なのは(9)の均等割額です。ここまでの説明ではあえて均等割額のことには触れてきませんでした。住民税の税率10%の話はすべて(8)の所得割額のことです。
均等割額とは、所得にかかわらず一律同じ金額でかかる住民税の一部です。図にもありますが税額は5,000円です。1カ月に換算すると417円。それほど大きな金額ではありませんが、住民税のなかにこうした種類のお金が含まれているということは覚えておきましょう。
課税標準額の仕組み
(3)課税標準額については記事の冒頭のほうでも登場していますが、少し突っ込んだ解説が必要です。武蔵野市の図では課税標準額は【所得-所得控除額】となっています。もちろん、これは正しいのですが、生活者の感覚では、まず「所得」というのがよく分かりません。実際、所得には10種類あり、所得額の計算方法や、税金の納め方などが必ずしも同一ではありません。
今回は住民税に関連する重要なポイントに絞って、まず所得を、次に所得控除額を説明します。
所得とは
所得とは【年収-経費】のことです。事業をしている人はこの考え方がすんなりと理解できます。つまづきやすいのは会社員です。年収は分かっても経費がピンとこないのです。おそらく会社の経費を計算したことはあっても、自分の年収に対する経費を考えたことがある人はほとんどいないのではないでしょうか。
実は、会社員は自分の経費を考える必要がありません。なぜなら税金を計算する際に、年収に応じて経費がいくらになるかを決める計算式が用意されているからです(計算式そのものはここでは説明しません。詳しく知りたい人は国税庁のホームページで確認してください)。
ここでも源泉徴収票があると、理解がスムーズになります。
薄い朱色が塗ってある「支払金額」から、薄い黄色が塗ってある「給与所得控除後の金額」を引いてください。それがあなたの経費です。
また【所得=年収-経費】の計算式を応用すれば、「支払金額」を年収、「給与所得控除後の金額」を所得とみなすこともできます。
所得控除額とは
続いては(2)所得控除額の出番です。
所得控除は大変やっかいな代物ですが、端的に言うと「各納税者の個人的な事情を加味して税負担を調整するもの」(国税庁ホームページより)です。
たとえば、「養っている家族が多い場合は税金が少なくなるように調整しよう」「ひとり親は生活が苦しくなることがあるから税金が少なくなるように調整しよう」「生命保険に加入していれば、いざというときすぐに公助に頼らず自助でやっていけるから税金を少なくしよう」、といったものが個人的な事情に該当します。
所得控除は全部で14種類用意されています。自分がどんな所得控除を利用できるかは、自分で調べ、確認するしかありません。控除額については、会社員であれば年末調整で会社が計算してくれるので安心してください。
また、給与明細には「所得控除の額の合計額」(水色の部分)が書かれています。
この数字は所得税における「所得控除の額の合計額」であり、住民税の所得控除の額の合計とは同じ金額にはなりません。所得控除の額がより少ないのは住民税です。控除項目がほとんどない人でも5万円、扶養家族などが多い場合は、10万円から数十万円の差がつくこともあります。
数字そのものに注目するのではなく、所得から所得控除額が引かれて課税標準額になる、という仕組みを理解するようにしてください。