「住民税0円」のカラクリ。新卒は住民税をいつから払う?

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4月入社の新卒社員。初任給を受け取るのは4月末あるいは5月上旬でしょうか。初めての給与明細は大事に取ってあるという人もいるかもしれません。実はこの給与明細に、新卒社員と住民税についてのヒントが隠されています。住民税の項目が給与明細に記されていないのです。つまり税金を引かれていない、納税していない、ということです。住民税の項目がない状態は翌年の5月まで続きます。初めて給与明細に住民税の項目が現れるのは入社2年目の6月からです。実に14ヵ月間も住民税の支払いがないことになります。

どうしてこのようなことが起こるのでしょうか。理由を突き止めるには、住民税がどのように計算されるか、その支払い方法の理解が不可欠です。

住民税の払い方。納付手続きは必要?

そもそも住民税はどうやって払うのでしょうか。

会社員の場合、住民税の支払いは給与からの天引きです。これを住民税の特別徴収と言います。天引きと似た言葉に源泉徴収がありますが、これは所得税の支払いに対して使う言葉です。

新卒で入社すると、入社後すぐに社会保険への加入など様々な書類を作成し、手続きを行うことになりますが、住民税に関しては特にすることはありません。住民税についてなにかをするとしたら、年末にある年末調整が最初です。年末調整については、「住民税の計算方法」のところで詳しく説明します。

入社からしばらくは手続きもなく、納税もなくほったらかされているのが住民税です。新卒でも給与明細をしっかり見ている人は、いつから住民税が引かれるのだろう、と疑問に感じていることでしょう。

住民税の計算方法

では、どうして新卒1年目に住民税を納めなくていいのでしょうか。これは住民税の計算の仕方と関係しています。

住民税の計算は地域によって多少の違いはあるものの、ほとんどは、1年間の所得に応じて決まる所得割と定額の均等割から成り立っています。所得割は「課税所得×10%」で計算します。例外はありますが、ほとんどの自治体が税率10%です。均等割は5,000円を採用している自治体が大多数です。

所得割は1年間(1月1日から12月31日)の所得がはっきりしてからでないと、正確な金額がいくらになるか計算が出せません。たとえば2020年の住民税であれば、所得が分かるのは2021年になってからです。さらにその所得を元に税金の計算、納付の手続きなどを行う時間が必要ですから、結果として特別徴収による納税が開始されるのは、2021年の6月から、ということになります。

なお特別徴収は住民税の総額を12等分して行いますので、今回の例では2021年6月から2022年の5月までは同じ金額での徴収が続きます(調整が必要な場合の変動は除きます)。

新卒1年目に住民税の納税がない理由と、いつから納税が開始になるのかはこれではっきりしたと思います。住民税が、いつからいつまでの分をいつ納税するのかがわかりづらくなるのは、このように納税と対象の所得の時期とにかなりのタイムラグがあるためです。

ここまでが理解できていれば、住民税の仕組みの大部分は分かったも同然です。説明を付け加えることがあるとすれば、年末調整と確定申告です。

年末調整とは、会社員一人一人の1年間の所得を会社が整理してくれる作業です。社員は年末調整用に配られる用紙に必要事項を記入し提出するだけです。大半の会社員はこれで税金に関する作業は終了します。

新卒社員の場合はかなり限られますが、確定申告をする場合もあるかもしれません。会社員で確定申告するのは、年末調整だけでは所得がはっきりしなかった人です。前年の所得に対し、2月16日か3月15日までの期間中に税務署に必要書類を提出する必要があります。会社員で確定申告が必要なのは、次のケースです。

確定申告をする必要がある会社員
  • 年収が2,000万円を超えている。
  • 給料以外の所得(副業など)が20万円以上ある。
  • 住宅ローン控除を受ける(初年度のみ確定申告が必要)。
  • 1年間で支払った医療費が高額でその控除を申請する(医療費控除)。
  • 災害や盗難などで財産を失った(雑損控除)。
  • 特定寄付金を支出した(寄付金控除)。

税務署の最終チェックを経て、ようやく1年間の所得がはっきりしました。住民税の税額計算は市区町村が行いますので、あとは納税通知を待つだけです。

学生時代のバイト代分の住民税は?

新卒は前年度の所得がないので、1年目は住民税の支払いがない、と説明してきましたが、この前提に異議を唱える人がいるかもしれません。入社の前年にアルバイトなどでお金を稼いでいた人です。この場合は、どれくらいお金を稼いでいたかで、住民税が課税される、されないが決まります。

住民税がかからない所得額

住民税が課税されるか所得のボーダーライン(いくら年収があるか)は、住んでいる地域や学生かどうかなどいくつもの条件によって決定されるためかなり複雑です、ここではもっとも低いラインを紹介します。アルバイトの場合、年収が93万円以下であれば、日本全国どこに住んでいても住民税はかかりません。そのため新卒の会社で給与天引き(特別徴収)されることももありません。

一方、年収が93万円を超えていた場合(住んでいる場所によっては住民税が非課税のままのこともあります)は、新卒であっても住民税が課税されます。自宅に送られてくる納税通知書に同封の納付書を使って役所やコンビニ等で納税をしてください。納税通知書が送られてくるのは6月。納期は6月、8月、10月、翌年1月の4回です。

新卒社員、入社1年目からの3年目までの税金

では、新卒社員の住民税についてまとめてみましょう。入社3年目までの場合で、課税所得となる対象期間とその分をいつからいつまでの期間で納税するかです。ここでも2020年4月に入社した場合で考えてみます。

入社年数対象となる所得の期間納税する期間
1年目2020年4月から2020年12月2021年6月から2022年5月
2年目2021年1月から2021年12月2022年6月から2023年5月
3年目2022年1月から2022年12月2023年6月から2024年5月

いつか退職の日がきたら、その翌年は所得はないのに納税だけが発生する、ということが起こりえます。退職のときは、翌年以降に支払う住民税がいくらになるのか把握し、その分のお金を残しておかなければならないのです。まだ遠い先のことではありますが。

住民税と市民税は同じもの?

住民税と似た言葉に「市民税」があります。「県民税」もあるよ、と教えてくれる人もいるかもしれません。住民税は「道府県民税」と「市町村民税」をあわせた総称です。納税の際は、住民税として扱われるのでそれぞれを意識することはあまりないかもしれませんが、覚えておくといいでしょう。私たちが払う住民税は都道府県と市区町村それぞれの税収となり、行政サービスを支えています。なお、東京都民は少し事情が違い、住民税は「都民税」と「特別区民税(23区)」もしくは「市町村民税(23区以外)」によって構成されます。

執筆者

鈴木玲(ファイナンシャルプランナー/住宅ローンアドバイザー)

出版社、Webメディアで企画・制作を手掛けたのちに、メディアプランナーとして独立。それまで無関心だった社会保険や税金、資産運用に目覚める。主に若年層に対して社会の仕組みやお金の役割について経験をもとに、わかりやすく伝える。

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