賃貸の火災保険は過剰補償?自分で選ぶ人だけが知っている本当に必要な保険の中身

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少し思い出話をさせて欲しい。20年ほど前のこと。東京での賃貸アパート探しを何度か経験したが、すべてのケースで不動産会社で火災保険の契約もしていた。2年間の保険料は単身世帯で19,800円、ファミリー世帯で29800円くらいだったと思う。当時の保険契約書一式が手元にあればいろいろ調べたかった。加入していた保険は本当に賃貸で暮らす人に向けたものだったのか。自分で選ぶことをしていればもっと安い保険に入れたのではないか。自分は不動産会社にとって「チョロい」客だったんじゃないかと。2年前、久しぶりに賃貸住宅を借りることになり、火災保険を色々と調べてみて感じたボクの本音だ。

家を借りる人の火災保険

火災保険は、その家に住む人・家族の持ち家であるか賃貸であるかに関わらず、加入しておいたほうがよい保険だ。たった一度でも、火事には大切なモノをあらかた奪ってしまう力がある。保険で補償されるものがあるならば、それを利用したほうがいいだろう。

ただし、火災保険と名がつくものなら何に入っても同じではない。とりわけ賃貸で暮らしているなら保険をしっかり選ばないと、入居期間中ずっと無駄なお金を払うことにもなりかねない。賃貸には賃貸にあった火災保険がある。

家を買った人の保険との違い

賃貸の人と持ち家の人との火災保険における違いを、具体的なシチュエーションを例に見ていこう。

どちらも住んでいるのはマンションという設定だ。まず、隣の部屋から火事が起こったケース(もらい火)についてだ。被害は建物の損傷(天井や壁の焼け焦げ、窓ガラスの破損)、衣服や家電など持ち物(火災保険の用語でいうところの家財)の焼失だったとしよう。

建物を修復しなければ住める状況に戻らないし、失ってしまった衣服や家電などの生活用品もそろえ直さなければならない。このような時に備えて加入するのが火災保険だ。修復や購入にかかる費用は保険金に頼ることができる。

ところでこのケース、疑問に思うよね。火を出したのは隣の住人。原因は隣人にあるのだから修復も購入もすべて隣人が賠償すべきなのではないだろうか。そのための火災保険なんじゃないの?これは自然な考えだ。

しかしながら、日本では過失(重過失は除く)によって隣近所を隣焼させてしまっても、原則として民法上の損害賠償責任を負わない、という法律がある(「失火責任法」)。

修復や購入にかかるお金に対して隣人が責任を負わないので、そのリスクとしてそれぞれ個人が自分で入る火災保険を用意して不測の事態に備えるんだ。

このケースではもうひとつ疑問がある。賃貸に住む人の場合だ。隣人が出した火事で、大家さんの財産である建物の修復を出火とは無関係な賃借人が負担する必要があるのだろうか。

この疑問は的を得ている。被災した賃借人からすれば、火事そのものに責任はないのだし、建物の修復費用を払うくらいなら、退去してしまえばいいではないか。その通り。これこそが賃貸の人と持ち家の人との火災保険における決定的な違いだ。持ち家の人はもらい火による被災でも、財産を保持するためには建物を修復せざるを得ない。だから火災保険で建物への補償をつける必要がある。一方、賃貸人はどうだろう。立地や環境、住み心地などがどんなに気に入っていた物件だったたとしても、自分の財産にならない建物に対して保険料をかける意味は見いだせないよね。家財にだけ保険をかけておけば十分だ。

これを表で整理すると以下のようになる。

居住形態建物への補償家財への補償
持ち家の場合必要必要
賃貸の場合不要必要

ただし、これはもらい火のケースでの想定だ。もし自分が火事を起こしてしまったらどうだろうか。大家さんの財産である建物を損傷してしまったら責任はどうなる?

借家人賠償責任保険

家を借りている人が、自分が火元となってしまい建物を損傷させてしまったケースを考えてみよう。「失火責任法」だけなら、これが対大家さんであっても賠償責任はなくなるように思える。法律的にはそれが正しい解釈だ。

しかし、契約時に家を借りる人は、「貸室を善良に管理・保管する義務」と「契約終了後にその貸室を原状回復して賃貸人に返還する義務」を負っているはずだ。火災によって建物を損傷させてそのままにしておくことは、この義務を履行してないことになる。その点で大家さんに対する賠償責任が発生するわけだ。

借家人賠償責任保険は、家を借りる人のこうしたリスクへの備えとして必要な保険だ。持ち家の人が自失はもちろん、もらい火のリスクも考慮し建物を補償対象にせざるを得ないのに対し、借家人賠償責任保険は自身が火災を起こした場合の責任にのみフォーカスしているので、その分、保険料負担も少なくて済む設計になっている。

名前に「火災」がないけれど、実際的には火災への備えになっていて、火災以外の落雷や風災、雪災も保険事故の対象となっていることがほとんどだ。

自分で加入するときの注意点

ここまで見てくれば、もう自分で火災保険を選ぶ準備は万端だ。冒頭で思い出話をしたけれど、今でも賃貸で部屋を借りるときに不動産会社から火災保険を勧められることは多いだろう。昔と変わらず、まるでその保険に入らなければならないような言い方をする会社があることも想像に難くない。

しかし、結論から言えば、どの火災保険にするかは自分で選ぶことができる。過剰な補償をつけて高い保険料を払って喜ぶのは保険会社とその会社からキックバックをもらう不動産会社だけ。本当に必要で意味のある補償に絞った火災保険であれば、オールワンパッケージのような火災保険よりも保険料が安くなる可能性は大いにある。

家を探すのと同じ考え方で、火災保険もいろいろな商品を比べてみよう。そして不動産会社で契約するときは、はっきりと加入する火災保険は決めている、と言えるように知識武装をしておくことが大切だ。

執筆者

鈴木玲(ファイナンシャルプランナー/住宅ローンアドバイザー)

出版社、Webメディアで企画・制作を手掛けたのちに、メディアプランナーとして独立。それまで無関心だった社会保険や税金、資産運用に目覚める。主に若年層に対して社会の仕組みやお金の役割について経験をもとに、わかりやすく伝える。

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