社会保険の加入をパートやアルバイトにも広げていこうという動きがあります。制度の見直しはいつなのか、対象になる人とならない人の違いなど2022年の条件を確認しましょう。
このページでパート・アルバイトの勤務先とするのは法人格をもつ会社で、個人事業所は含まないものとしています。
パートやバイトが加入する社会保険とは?
ひとくちに社会保険といっても色々な種類があります。もっとも広義な意味での社会保険には「医療保険」「年金保険」「介護保険」「雇用保険」「労災保険」の5つの保険が含まれます。このうち雇用保険と労災保険については、労働時間が短いパートやアルバイトでも加入していることがほとんどです。
今回の記事で取り上げる社会保険とは、パートが会社を通じて加入する医療保険(健康保険)、年金保険(厚生年金)、介護保険です。なお介護保険は40歳以上になると加入が義務付けられる(保険料の支払いが開始される)保険です。ご自身の年齢によって保険の有無が変わりますので注意してください。
パートやアルバイトのなかには、勤務先で社会保険に入りたい人と、社会保険に入ったら困る人がいます。社会保険の加入条件を確認するときは、どの立場で見るかも重要です。いずれにせよ勤務先で社会保険に加入するかどうかは、個人の事情や意思とは関係ありません。加入条件を満たしたら強制的に加入させられることになります。勤務先の社会保険に入りたくない人にとってはこの点は重要ですので注意してください。
パートの社会保険。2022年の加入条件。2021年との違いは?
では、パートやバイトの社会保険(健康保険、厚生年金、介護保険)の加入条件が2022年時点でどのようになっているか、確認していきましょう。
社会保険への加入が決まる最初のハードル
パートやアルバイトが勤務先の社会保険へ加入するには、いくつかの段階があります。まず、勤務先の社会保険への加入が決まる条件を確認しましょう。
- 勤務時間および日数が、正社員の4分の3以上であること
時間は1週間の所定労働時間で、日数は1ヵ月の所定労働日数で数えます。その他の条件、たとえば稼ぐ金額や、学生かどうかといった点は考慮されません。この条件をクリアしているパート、アルバイトは社会保険に加入していることが当たり前なので、社会保険への加入条件をいちいち確認したりはしていないかもしれません。
加入条件のボーダーライン。4項目全クリアで加入
最初のハードル、「勤務時間および日数が、正社員の4分の3以上であること」は、なかなかに高い条件設定で、ほとんど正社員とそん色ない働き方をしているパート、アルバイトに限られます。
この高いハードルを越えないパート、アルバイトでも、次に用意されている4項目をすべてクリアすれば勤務先の社会保険へ加入することになります。
- 週所定労働時間が20時間以上
- 月額賃金8.8万円以上
- 1年以上の使用見込みがある
- 学生等でない
なお、従業員数が501人以上の大きい会社で働く場合は1の週所定労働時間が30時間以上から20時間以上に引き下げられます。より、社会保険に加入しやすくなる条件に変わるのです。
加入条件は2022年と2021年で変わった?
政府は社会保険の加入者を増やしたくて仕方がありません。理由としては「パートやアルバイトが将来の年金を多く受け取れるようにする」「働き方の違いで年金受給に差が出ることの不平等の解消」といった点が挙げられています。加入者を増やすための制度変更は今後数年の間に連続的に行われます。
2022年はまさにその過渡期であり、10月に大きな変更があります。
次のブロックで、今後の適用拡大の仕方とそのスケジュールを確認しましょう。
転職を意識することも?次回の適用拡大まであと1年
加入者を増やすために行われる制度変更の対象は、先ほど取り上げた4項目のボーダーラインにある「週所定労働時間」です。
現在は週所定労働時間が30時間以上が原則で、従業員数が501人以上の会社で働く場合に限り20時間以上に引き下げられています。2022年10月からは対象となる会社の従業員数が101人以上に変わります。さらに2024年10月には同51人への変更予定です。
時期 | 対象企業の従業員数の基準 |
~2022年9月 | 501人以上 |
2022年10月~2024年9月 | 101人以上 |
2024年10月~ | 51人以上 |
今は週所定労働時間が30時間以上が原則ですが、徐々に20時間以上が標準となり、従業員数が少ない会社が例外として30時間以上のまま残ります。
社会保険に入りたかったけど入れなかったパート、アルバイトにとっては適用拡大への動きは歓迎すべきことです。人によっては今の働き方を少し見直すだけでも会社を通じて社会保険へ加入できるかもしれません。
一方で、パート先の社会保険に入りたくない人は注意が必要になります。従業員規模の関係でこれまで社会保険に入らなくてもよかった人の勤め先が、今後社会保険に入らなければならない会社になることもありえます。人によっては2022年は転職を考える年になるかもしれません。社会保険加入の条件をしっかり確認して、労働時間や月額賃金のコントロールなどを今から考えておきましょう。
社会保険への加入者を増やしたい理由を深堀り
パートやアルバイトに代表される非正規社員は2018年時点で全労働者の4割近くを占めます。ある人が厚生年金に加入しない非正規社員の道を一生かけて貫くとしましょう。今の制度だと老後にもらえるのは国民年金だけです。国民年金は満額もらえる人でも月の支給額は6万5千円を少し下回る水準です。もしほかに資産がなかったらこの支給額だけで生活するのは難しいと言えるでしょう。こういう可能性のある働き方をしている人が全体の4割というのは見逃せない数値です。パートやアルバイトでも厚生年金に加入できれば、老後は国民年金(基礎年金)にプラスして厚生年金分が受け取れます。
また、健康保険も国民健康保険より給付内容が優れています。特に健康保険にのみある出産、疾病により会社を休まざるを得ないときの給付金(出産手当金、疾病手当金)の存在は大きな違いです。
社会保険の加入者を増やす試みはパート、アルバイトなどを取り込むことがメイン施策です。今後はさらに週所定労働時間が20時間未満の働き方をする人にも何らかのアプローチが行わるかもしれません。
参考)厚生労働省「働き方の多様化に伴う被用者保険制度の課題・2018年」
適用拡大が企業に歓迎されない理由
社会保険の適用拡大にはみんながウエルカムかというとそうではありません。企業は従業員の健康保険料・厚生年金保険料のおよそ半額を負担しています。パートやアルバイトが会社を通じて社会保険に入ることになったら、その会社は彼ら/彼女らの社会保険料の半分も負担しなければいけません。パートやアルバイトが多数在籍する会社では、その影響はとても大きくなります。中小企業にとってはもはや経営問題です。勤め先の従業員規模数によって条件に違いがあったのも、この点が考慮されていたためです。
社会保険に入れるようになったけど会社がつぶれた、ではシャレにもなりません。パートやアルバイトの多いサービス業界などは適用拡大に反対してます。倒産とまではいかなくても、会社の社会保険料の負担が増えると賃金そのものの減少やその他の福利厚生サービスの質の低下、さらには雇用そのものを減らそう、という動きが出ることも十分に予想されます。働く人のことを考えて行おうとしていることが、かえってその人たちを苦しめることも十分に起こりえるのです。
ファイナンシャルプランナーからの挑戦!
社会保険の加入条件と適用拡大について理解できたかな!?
ここで私からの挑戦状です。社会保険への理解度が進んだか、セルフチェックしてみてください!
初級編
Q:会社を通して加入する社会保険にはどんなものがあるか、説明してください。
ポイント解説:広い意味での社会保険はぜんぶで5つあります。そのうち加入しやすく、また加入しても特に困らないのは労災保険と雇用保険です。さて、ほかには何があったでしょうか。
中級編
Q:社会保険の適用拡大に向けて、2022年に変更されることはありますか?
ポイント解説:現在、社会保険の適用拡大の対象は、週所定労働時間が20時間以上あれば会社の社会保険に入れるようにする取り組みです。すでに従業員数が501人以上の会社はこのルールになっています。2022年の10月にはルールの一部が改訂されます。その内容は何だったでしょうか。
上級編
Q:社会保険の適用拡大を行うと困ることとして、どんなことが予想されていますか?
ポイント解説:ふたつの視点から見ることが大切です。会社の社会保険に入りたくない働き方を希望する人の視点と、社会保険の加入者が増えることで会社にどのような影響があるかの視点です。特に後者は忘れられがちですが重要です。