もしあなたが会社員ならば、何ヵ月分かの給与明細を開いて住民税の欄を確認してみてください。給与天引きで引かれる住民税の額はだいたいどの月も同じ額になっていませんか?給与が一定であれば、それは納得できることです。でも、毎月の給与に凸凹があり、所得税はそれに応じて上下しているのに、住民税だけは変わらない額を引かれている。そういった状態になっている人も多いはずです。
なぜ、このようなことが起こるのか。これは住民税の支払いが独特なタイムスケジュールで成り立っているからです。
住民税はいつから?会社員、フリーランス、バイトの支払いの違い
給与天引きされる住民税の額が同じと言いましたが、2年も3年もずっと税額が変わらない、ということではありません。毎月の納税額が同じ期間は1年です。給与天引きがない働き方もあります。フリーランスや、一部のアルバイトなどです。この場合は自分で住民税を納付することになります。
どちらの納税方法も住民税の額がいつから変わるかという点では、はっきりとした決まりがあります。
給与天引きは6月からが原則
会社員のように住民税が給与天引きされている人から、確認しましょう。給与から住民税を引くこの納税方法を特別徴収と言います。特別徴収で、いつから引かれる税額が変わるか。答えは6月です。6月に適用された新しい住民税額は、その後1年間、翌年5月まで毎月同額で推移します(調整が必要な場合の変動は除きます)。
フリーランスは納税通知書を利用
一方で給与天引きがない働き方もあります。フリーランスや、短期間のアルバイトなどです。こうした働き方をしている人も、6月が重要な季節であることは変わりません。6月上旬に自治体から納税通知書が送付され、今後1年間の納税額が決定します。住民税は年4回に分けて納税します(一括納税も可能です)。この納税方法を住民税の普通徴収と言います。
今月の住民税はいつの分?支払いまでのタイムラグに注意
住民税の税額が変わるタイミングとして6月が重要な月であることを説明しました。ではこの6月から新しく天引きされる、または納税通知書で支払う住民税は、いつからいつまでの収入を基準として決まるのでしょうか。
6月の天引きは前年度の所得が基準に
会社員を例に考えてみましょう。住民税の計算は地域によって多少の違いはあるものの、ほとんどは、1年間の所得に応じて決まる所得割と定額の均等割から成り立っています。住民税の税額が変わるとしたら、それは所得割の額が変動したからです。所得割は「課税所得×10%」で計算します。例外はありますが、ほとんどの自治体が税率10%です。
毎月給与から引かれるのは、この所得割と均等割(目安は5,000円)の合計を12等分したものです。
では、6月から変わる住民税はいつの分の所得に対する税金として考えればよいのか、時系列で整理してみます。ここではわかりやすいように2020年を起点として考えます。
- 2020年(1月1日から12月31日まで)の課税所得を明らかにする。 (会社員であれば多くの人は年末調整によって会社が課税所得を計算してくれます)
- 2021年の5月31日までに会社を経由して納税額の決定通知が行われる。
- 2021年の6月から2022年の5月までの間、決まった額の住民税が毎月天引きされる。
6月は、前年分の所得に対して課税が始まる最初の月、ということになります。
住民税が混乱しがちなのは、上の例であれば2020年の所得に対する住民税の支払いが2022年5月まで続くからです。実質、2年も前の所得が対象です。住民税が、いつからいつまでの所得に対して課税されたものかがぼんやりするのは、課税対象と実際の支払いとにこれほどにも長いタイムラグがあるからです。
今月天引きされた住民税がいつの分の所得に対しての支払いなのか。即座に答えられるようになれば、住民税の仕組みの大半は理解できた、と考えても過言ではありません。
ここまで会社員の例で説明してきましたが、納税通知書を使うフリーランスや一部のアルバイトも基本的な流れは同じです。異なるのは納税額の通知が自分に直接届くことと、支払い期限です。上の例にならうなら、2020年分の住民税は、2021年6月・8月・10月、2022年1月の4回に分けて納税することになります。
ボーナスでも住民税の天引きはある?ない?
ここまで読み進めてきた人なら、会社員がボーナスを受け取るときに住民税の天引きがあるかないか、想像できるのではないでしょうか。答えは、「ない」ですね。もちろん、これはボーナスの所得に対して住民税がかからない、ということではありません。今年のボーナス分の税金は、来年以降の給与天引きのなかで支払っていくことになります。ボーナスのときに、天引きはない、というのが住民税の支払いにおけるルールです。
新卒、転職、退職者の住民税
住民税の仕組みが分かってきたところで、一部の会社員の住民税の支払いについて気になった人もいるのではないでしょうか。所得が継続しない場合や、職場が変わった時です。新卒、転職、退職者の3つのケースを取り上げてみます。
新卒の住民税
新卒として初めて給料を得る立場になったら、住民税はいつから引かれるようになるのでしょうか。2020年4月入社のケースで考えてみましょう。
まず住民税で重要な6月です。入社直後の2020年6月時点では前の年に所得がありませんので住民税の支払いは発生しません。これが2021年5月まで続きます。入社から1年と2ヵ月は給与から住民税が引かれないということです。
2021年6月がやってきました。初めての住民税の支払いです。いつの分の所得が対象になるか分かりますか?答えは2020年4月から12月までの分です。8ヵ月分の所得を、2022年5月までの12分割で支払うイメージです。
入社から3年目の2022年6月。ここまで来てようやく新卒特権はなくなります。2021年1月から12月までの1年間の所得分を、2023年5月までの12ヵ月間で支払っていきます。
新卒の住民税については、「住民税0円」のカラクリ。4月入社の新卒は住民税をいつから払う? も参考にしてください。
転職者の住民税
新卒と比べ転職者の住民税の扱いは少し複雑です。それは、前職ですでに収入があることと、転職時期によって処理の仕方が変わってくるからです。
まず、支払いの手間がもっともかからないのは、特別徴収(給与からの天引き)を継続して行うことです。具体的には新しい職場で、前職の所得に対する住民税を天引きしてもらうことです。この場合は「特別徴収・給与支払報告に係る給与所得者異動届出書」を新旧の会社に記入してもらい、新しい職場を通じて役所に届け出る必要があります。
手続きがスムーズにいかない場合は、一部で普通徴収を挟むことになります。普通徴収でも特別徴収でも納税額に変わりはないのですが、一時的な負担の重さは普通徴収にありますので、転職者はいつ、どれくらいの住民税を支払うことになるのか、把握しておいたほうがいいでしょう。
退職者の住民税
ここでの退職者とは、次の仕事を行わないという意味です。このケースでは退職の時期によって納税の仕方が変わります。
まず1月から5月までの間に退職した場合です。住民税の支払いは6月から5月がワンクールとして扱われることを思い出してください。このケースでは5月までの住民税を納めてから退職することが原則です。最後にもらう給与(または退職金)から、残っている住民税が一括徴収されます。1月に退職したら1月分も含め合計5ヵ月分の住民税が天引きされることになりますから、手取りはだいぶ減ってしまいます。
一方、6月から12月までの間に退職した場合は少し事情が異なります。このケースに該当する退職者は、給与天引きによる一括徴収か、納税通知書による普通徴収かを選ぶことになります。一般的には納税通知書を利用するほうが多いようです。
いずれのケースも忘れてはいけないのは、ここで清算しているのは前年の所得に対する住民税だということです。退職した年もまた所得がありますからその分は、退職の翌年も住民税の支払いはやってきます。特に退職年の所得が多い人は、その所得に対してかかる住民税分をしっかり準備しておくことが大切です。